2023.05.12すべては幸せに働く大人から始まるー幸福学研究・前野マドカ氏と育むウェルビーイングな場【イベントレポート】
イベントレポート
2023年4月19日に開催された特別プログラム「越境寺子屋」の様子をお届けします。
組織論や各分野の最先端を牽引するゲストを招き、さまざまな背景を持つ参加者が交流し学びを創発する本プログラム。
当日はEVOL株式会社代表取締役CEOであり、国際ポジティブ心理学協会会員でもある前野マドカ氏にお越しいただきました。前野マドカ氏は幸福学研究の第一人者である前野隆司氏(慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授)と夫妻であり、自身も同研究科附属SDM研究所研究員です。
「ウェルビーイングな組織はどうしたら作れるのか」
「幸せに働くために必要なことは何なのか」
こうしたお悩みをもつ方は、ぜひ最後までご覧ください。
資本主義からウェルビーイングへ。変わりゆく時代の流れ
前野氏の専門は「幸せ」についての研究と実践である。参加者も含めた自己紹介の後、まずは今の時代と幸せについての見解が前野氏、モデレーター陣から語られた。
前野:私は今、幸せについて研究して分かったことをプログラムにして講演させていただいたり、書籍にして皆さんにお伝えする活動を行っています。本来は全てのプロダクトやサービスに「幸せ」という要素を考えていいのに、それが設計されないで資本主義が発達してきたのが現代なんですね。今、やっと立ち返るときが来たんだなと思っているところです。
岩波:僕らが生きてきた時代は、人生の成功は基本的に「相対的思考」です。社会適合が求められまくって、世の中の基準というものを理解して、その中でどれだけ上に上がれるかが成功だと思われた時代だったんですよ。好きでやっている人はいいんだけど、そういう基準が正しいとされる時代ではなくなってきています。その基準で登ったところで世の中が良くなっていないと明らかになったのが、この30年ぐらいで起きています。
今回の参加者の中には、意志を持って新しい活動を立ち上げようとしている20代の若者が複数いた。彼らのエピソードからも時代の変化が感じられた。
岩波:自分のソースに繋がって生きることを選択する人がどんどん増えています。周りにそういう熱を持った人がいると、周囲もその影響を受けます。逆に言うと、相対価値に寄りすぎて不安と恐怖で動いている人の近くにいると、自分も負のエネルギーで支配されます。支配したい人たちは不安と恐怖を煽ってくるんですが、時代は変わってきています。熱を持って影響し合う仲間、ネットワークで助け合って生きる仲間たちが強くなっている。こういう繋がりをソーシャルキャピタルと呼びます。
「ソーシャルキャピタルがエコノミーキャピタルを超える時代になっています」と岩波氏は続けた。
岩波:今まではエコノミーキャピタル、つまりお金がどれだけあるかが幸せの基準だったけれど、決してお金がある人が幸せとは限らない場面もよくありますよね。相対価値で生きていると本質的なところで自分に自信がなかったりします。いつも不満を抱えて、それを隠すために権力とお金を使います。それって果たして本当に幸せなのでしょうか。
自分のソースに繋がって自己表現をしているときって、最初は理解されないんですよ。変な人だと思われます。でも表現し続けると、磨かれて磨かれてその表現に感動する人が増えてきます。これがソーシャルキャピタルに繋がっていくんですね。
自分、チーム、社会にとってのウェルビーイングを考える
自分のソースに繋がることは、自分にとってのウェルビーイングを考えることとかなり近い。前野氏は「大人が幸せに働くこと」の重要性を伝え続けている。
前野:活動する中で分かったことは、子供たちを幸せにしたいと思ったら関わる大人が幸せじゃないと子供は幸せにならないんですね。子供にとって絶対的な存在は、先生と親なんです。だからどっちかが悩んでいたり、落ち込んでたりウェルビーイングじゃない状態だと、幸せになれないんですね。この親御さんはどこかの会社に勤めている。だから勤め先の会社全体も幸せじゃないといけないんです。
前野:自分の仕事に誇りを持つことは、すごく素晴らしいことだと思っています。大人たちが仕事に誇りを持って働いていたら、何も教えなくても子供はその背中を見て育ちます。あんな大人になりたいなって明るい未来を描けるんですよ。だから自分の仕事に誇りを持てるように、どんな仕事も全て意味があって自分次第だと思えるかどうか。幸せって自分次第です。人それぞれのウェルビーイングがあるから全部一緒じゃないんですね。まずは自分にとってのウェルビーイングを考えることが大切です。
幸せは伝染するという研究結果があります。鬱も肥満も伝染します。とにかく人間というのは環境に影響されやすい。自分のウェルビーイングを整えた人が集まって、今度はこのチームにとってのウェルビーイングを考えよう、この会社にとってのウェルビーイングを考えよう、地域社会にとってのウェルビーイングを考えよう、となるのが一番いいんです。そうじゃないと続きません。
前野:自分、チーム、社会がウェルビーイングな状態。それは決してわがままなことではありません。「幸せの4因子」の中だと第2因子の「”ありがとう”因子」と第4因子の「”ありのままに”因子」の両方が整っていれば絶対にわがままにはならないので、それは覚えていただきたいと思っています。
(前野マドカ公式HPより画像引用)
具体的な行動で、自身と社会に変化を起こす
参加者からは、自分が進もうとしている道の背中を押されたという声や、自分をさらけ出す方法についての声が上がった。
参加者:お話を聞いて、むちゃくちゃ心が軽くなりました。やりたいことにこんなに真正面から向かっていいんだという、安心感というか。これから人に伝えるときも、自分がやりたくて続けてきたものを解放していきたいなと思います。そうすれば賛同してくださる方も増えて、結果的に自分の夢も叶ってみんな幸せになれるんだと確信に変わりました。
岩波:すごくいいですね。「僕が思っていることをみんなに知らせる必要はないんじゃないか」と思ってしまうじゃないですか。恥ずかしさもありますよね。でも思ったことをバンバン言う人には、回り回って応援してくれる人が本当に出てくるんです。これは本当に大事で、そこから繋がりが生まれます。
参加者:周りの方の話を聞いて、今の自分は自分の思いを聞かれると緊張することに気づきました。どうやってさらけ出したらいいのかを忘れているなと思います。こういう状態のときは、どうすれば自分を開いていけるでしょうか。
前野:まず言えるのは、自分をさらけ出せなくなっている状態に気づいているのは、すごいことだと思います。自分のことを俯瞰して見れている。普通はそれさえも感じられないことが多いです。真面目に一生懸命、こうあらねばならないとか、こういう自分でいたいとか、そこがあるから今もやもやしている自分をさらけ出すのはどうかと思ってるんじゃないかなと思うんです。人って誰かのものさしではなくて、自分がいい状態だったらそれが一番で、堂々と思い切り出していいんですよ。出したらそれを受け止めてくれる人たちがたくさんいるので、恐れずに思い切り出していいんだよっていう許可を、自分に与えてほしい。出したらこんなに簡単だったなとか、こんな風に受け止めてくれる人がいたんだとか、そうなると思うんですよ。
岩波:相手の人間性は、実は自分が半分以上引き出しています。自分が開いていると相手も開きます。自分が恐怖と不安を抱えていると、相手もそういう接し方をしてくる。これは一つの真理だと思うので、こういう場でも開くことをみんなができると必然的に開いている人が寄ってきます。
岩波:これまでいろいろな組織や企業、個人のケースに関わらせていただいて、必ず大事にしてほしいキーワードがあります。「対話」「内省」「越境」、そして「具体的な行動」。この4つがすごく重要なんです。4つを実践すると自分のソースに繋がれる可能性が高まります。対話をするためには内省が必要で、越境というのは場や国を跨ぐこともあれば、自分の心の壁を越えるという越境もあります。そして必ずこの後、ちょっとしたことでいいから何か行動を起こさないと、新たなことは絶対に得られない。
前野:私もそうやって今があります。皆さんにもお伝えしたいのは、自分の心が動いたり、いいなと思ったら、まずは行動するのが大事。考えて、感じて、行動する。これがセットじゃないといけない。考えるだけでも感じるだけでも、行動だけでもダメです。とにかくこの3つがセットになって動いていくと、必ず諦めないで動いていくと素晴らしい成果が出るようになります。
今日は皆さんとお会いできて、こんな風に自分の思いを伝えられて最高に幸せですし、皆さん明日から何か、ちょっとでもいいので行動に移していただきたいなと思っています。
幸福学研究を専門に、子育てや学校教育の現場で活動を重ねている前野マドカ氏。彼女とモデレーター陣、参加者たちが作り上げる場は、資本主義が主流の世界とはまた違う、これからの生き方や働き方に光が差すような「繋がりの場」だった。
前野氏から「まずは自分をウェルビーイングな状態に整え、チームや社会に広げていく」というメッセージを受け取った参加者たちは、まず自分のありたい姿を考えてみる、自分の思いを発信してみるなど、次の行動へと移っていった。大人が幸せでなければ、子供も幸せにはなれない。大人が幸せでいるには、所属する組織が幸せである必要がある。
幸せな組織を増やすために、ココシフでは今後も人と組織のよりよい在り方を探究し、自律共創型組織へのサポートをし続けます。
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